この記事を読んで頂いている方で「経理はうちでやっているよ」とおっしゃる方はどれぐらいおられるでしょうか。診療所の場合、小規模で経理担当者がいないため給与計算も含めて事務関係のことは全部、会計事務所に依頼しておられるところがあります。アウトソーシングの流れに沿って、専門外のことは外注すればいいという考えで、確かにそれはもっともと思う面もあります。しかし、アウトソーシングすべき業務としてはいけない業務があります。
小規模でもきっちり帳簿を自分で作成されている診療所があります。そのような診療所はなぜ、自分で帳簿を作成されるのでしょうか。
今年の診療報酬は久しぶりにプラス改定になりましたが、その内容は再診料の引下げを始め、診療所にとっては厳しい内容でした。しかもそれ以前の改定ではマイナス改定が続き、医療機関の経営に大きな打撃を与えました。
経営相談等で収入減少の診療所のお話を伺うと間違いなく、経理は会計事務所(他人)任せです。そして「会計のことは全部、会計事務所に任せてあるから内容はわからない」と言われます。医療機関において、倒産や経営不振で廃院するケースのほとんどが、その計数管理の甘さで、経理を他人任せにしています。自院の数値は経営者が一番よく知っていなければなりません。金融機関の融資担当者は融資が出来ないケースとして第一に、経営者が自らの財政状況を把握していない場合をあげます。
ここで会計(帳簿の作成)は誰のために、何のためにあるのかを考えましょう。会計の目的はというと税務署に申告書を提出するためとか、融資を受けるときに銀行に決算書を提出しないといけないからと思っておられる方も多いと思います。しかし、会計の本質的な目的は、経営者が病医院の財政状態が今どういう状況かを把握で出来るようにし、そして今後どの方向に進んでいくか、どう舵をとっていくかの判断材料にする自己に対する報告にあります。
そう考えるとその情報はタイムリーなものでなくてはなりません。外部に委託して、その結果報告は年に数回とか、最悪の場合、税務申告の際に年1回だけというようなとんでもないケースは言語道断です。
このような場合、合法的な節税対策も出来ず、違法な脱税行為を犯してしまうことにもなりかねません。これらは会計の目的を履き違えている典型的な例で、変化に対応できない、将来の廃院予備軍です。タイムリーとは帳簿付けをお金やものの出入りがあったときに帳簿に記録し、そして毎月業績を把握するということです。そのためには自院で会計帳簿を作成する必要が生じてきます。冒頭の診療所はどんな変化にも対応できるように自分で帳簿を作成されるのです。
自ら帳簿を作成できない理由として、経理のできる人がいない、簿記の知識がない、時間がない、職員に見られたくない、誰も教えてくれない、面倒くさい等が挙げられます。まず、簿記や、経理の知識の問題については、パソコン、会計・給与ソフトそして会計事務所を活用することで100%解決できます。今は昔と違い、語弊はありますが、簿記や給与計算の知識がなくても、会計事務所の適切なサポートがあれば、経理処理に余分な時間をかけなくてもパソコンを利用して自ら法令に則った会計帳簿の作成や給与計算をすることができます。また、作業のアクセス権管理機能のついたソフトウェアであれば機能を個人ごとに制限することもできます。
時々、金銭出納帳、銀行帳、請求書等まできっちり整理されそれを会計事務所に渡しているというようなケースがあります。このような場合、パソコンを活用されれば、今まで以上に時間も労力も短縮して自ら帳簿の作成ができます。
「帳簿付けなんかやったって面倒なだけで患者は増えない」とお考えの先生方は多いと思います。しかし、自ら帳簿を付けるということは自院の経営状況を把握して問題点を見つけ、将来の進むべき方向を明らかにする、すなわち自らを守るためのものなのです。自分を過信して体調にも気遣うことなく何年も過ごし、体調を崩してから初めて受診した人と、健康管理に自ら注意を払い、定期的な健康診断を受けてきた人とではどちらが健康を維持できるでしょうか。自分の健康管理を面倒くさいからといって他人に任せるような人が健康を維持できるでしょうか。
会計事務所の役割は関与先様が自ら帳簿作成を出来るように、事務担当者の能力の向上をサポートし、出来上がった会計資料を経営者である先生方にわかりやすく説明し、会計を味方につけて、タイムリーに病医院経営に役立ててもらうことにあります。会計事務所への顧問料は帳簿作成だけのコストになっていませんか。帳簿作成は自院で行い、それを会計事務所が間違いないか専門的な立場から毎月監査し、出来上がった数値をもとに問題点の解決や、将来の計画を会計事務所と相談する、そういう顧問料のほうが価値あるコストではないでしょうか。
今回の診療報酬改定は、配分の見直しが大きな特徴でした。限られた財源、人口減少、超高齢化社会の到来、競合医院の増加など医業経営は今後ますます、変化への対応が求められます。自らの足腰を鍛えておく、その第一歩が自ら帳簿を作成できるようになることです。
■ パソコンの機能を使えば簿記の知識がなくても入力できる